脳をチューンアップしてアルツハイマー病を止めよう[1/2]

「アルツハイマー病は大部分が予防できる(for the most part preventable)」という強力なメッセージをこめて米国で公開されたドキュメンタリーシリーズ「アルツハイマー病からの目覚め(awakening from alzheimer’s)」awakening from alzheimer’sのWEBサイトはこちら

この中から、Dr. Jacob Teitelbaumのインタビュー「脳をチューンアップしてアルツハイマー病を止めよう:MINDプロトコール(The MIND Protocol: Tune Up Your Brain & Turn Off Alzheimer’s)」の情報を要約的にご紹介します。

Dr. Jacob Teitelbaumは、慢性疲労症候群(CFS: chronic fatigue syndrome: 慢性疲労症候群)と線維筋痛(fibromyalgia)の実効的治療において、世界的に認められた専門家の1人として知られています。自身が慢性疲労症候群と線維筋痛のため、メディカルスクールを中断してホームレスになった経験がある由。 著書も多数ありますが、邦訳はされていません。

Dr. TeitelbaumのWEBサイト Dr. T’s Health Blog に掲載されているMINDプロトコールの記載内容も適宜加えました。

本稿はその前編として、
・Dr. Teitelbaumが指摘するアルツハイマー病の特徴
・彼がデザインしたアルツハイマー病と認知症治療の包括的アプローチであるMINDプロトコールの概要
・その構成要素のうち、代謝の最適化、栄養サポート、薬の問題
について取り上げます。
もう一つの構成要素である感染症に関しては後編で紹介します。

アルツハイマー病の特徴

アルツハイマー病や認知症は、ある日まで車を運転したり元気にやっていた(doing fine)のに、突然に自分の子供たちが思い出せなくなるというようなものではない。

脳機能(brain function)が徐々に低下(gradual decline)しているのだ。

また、ある日はかなりしっかりしている(pretty clear)のに、別の日は完全に自分を失っている(totally gone)ということが見られるが、これはアルツハイマー病が治ったり(go away)ひどくなったり(horrible)ということを繰り返しているからではない。

《長期的に低下している脳機能のある段階での》脳機能のわずかの低下(small decreases)が総合的機能の大きな変化(major changes in overall function)を引き起こしているのである。

だから脳をチューンアップして(tune up)、脳機能を5%とか10%改善することができれば、自分の子供の見分けがつかない状態に対して、車の運転ができる状態という違いが起こりうる。

臓器不全(organ failure)では、最後の5-10%の機能低下(drop)で状況が一変する(makes all the difference)。
腎不全(kidney failure)で言えば、1個の腎臓を失っても全く問題ない。これで50%の機能。残りの腎臓の半分の機能を失ったとすと25%の機能が残されていることになるがそれでも問題は起こらない。
しかしそれよりも少しでも下回ると、透析療法(dialysis)が必要になる。最後の数パーセントが、問題なしと透析療法の差になる。

脳機能の低下も同じである。

そして脳機能は、多くの要因が影響を与えているので、ゆらぐように変動する(fluctuations)ものと思われる。

これが、とても緩やかに進行(very gradual progression)しているのに、突然目立つものになり(suddenly it gets noticeable)、極めて急速に起こったように見える(seems to happen very quickly)理由である。

これが、ある日は子供が見分けられないのに、次の日は普通に戻る(fine again)ことがある理由である。

アルツハイマー病の症状が見つかっていてもいなくても( whether Alzheimer’s is present or not)、もし脳をチューンアップして脳機能を5−10%よりよく働く(more effective)ようにできれば、子供が認知できない状態から、自分自身の面倒を見ながらかなり充実した生活を送る(take care of yourself and live a pretty full life)ことができる状態になりうる。

もう一つの問題(another issue); アルツハイマー病と診断された(diagnosed with Alzheimer’s disease)人たちの30−50%は、全くアルツハイマー病ではない(never have the slightest bit of Alzheimer’s)という複数の研究結果がある(studies show)。

このことは、彼ら《30−50%》の認知症(dementia)は他の原因によるものであり、その多くは治療可能(treatable)であることを意味している。

アルツハイマー病を診断する唯一の確かな方法(only definite way to make an Alzheimer’s diagnosis)は、亡くなった後での死体解剖(autopsy after people die)である。《解剖して脳内のβアミロイドの凝集を見ることを意味していると思われます。》 

最初に考えるべきこと

認知機能障害(cognitive dysfunction)を予防するために最初に考えるべき事は、健康な食生活(healthy diet)、良質の睡眠(good quality sleep)、体を動かすこと(exercise)である。

しかし、極端な食事療法や運動スケジュール(exercise routine)は必要ではないことに注意しなければならない。

家族に健康な食生活を押しつけるのは困難であり得るし、劇的な変化によって自分自身や家族にストレスを与えるのは好ましくない。健康な食べ物の選択を取り入れるのに、可能なら小さな変更を行うというのがよい方法である。

運動については、太陽を浴びながら定期的に散歩(regular walks)することを薦めている。日光を浴びることにより生成されるビタミンDが、脳機能を保護するのに役立つ。

MINDプロトコールとは

MINDプロトコール(The MIND Protocol)とは、Dr. Teitelbaumが中心になって進めているアルツハイマー病と認知症の治療に関する臨床試験研究
Treatment of Alzheimer’s and Dementia With the Metabolism, Infections, Nutrition, Drug Elimination (MIND) Protocol (MIND)
(以下ではMINDプロトコール研究と呼びます)において、中核となる包括的な取り組み(comprehensive approach)です。MINDは、Metabolizm(代謝)、Infection(感染症)、Nutrition(栄養)、Drugs(薬)の頭文字を取ったものです。

M: Metabolizm(代謝)

代謝を最適化するoptimize metabolizm)ことを意味する。ホルモン機能を改善する(improve hormonal function)、インシュリン感受性を高める(boost insulin sensitivity)などである。

I: Infection(感染症)

慢性の感染症を治す(clear up chronic infection)。
感染の明らかな症状(obvious symptoms of an infection)がなくても、脳に影響を与えている(impacts the brain)。

N: Nutritional Support(栄養サポート)

脳機能に大きく影響するビタミン・ミネラル類の摂取、脳機能を改善するサプリメント類の投与、ココナッツオイルによるアルツハイマー病患者の脳への栄養補給、などです。

D: Drugs(薬)

薬が不足していると言っているのではない。認知症に似た症状を呈する(mimic dementia)薬の副作用(drug side effects)のことを言っているのだ。不必要な投薬(unnecessary medications)を取り去ると、認知症も消え去るように思われる(dementia seems to go away)。

MINDプロトコール研究

MINDプロトコール研究の参加者は、アルツハイマー病を含む様々な認知症と診断された人たちで、軽度認知障害(mild cognitive impairment)から中期段階のアルツハイマー病(mid-stage Alzheimer’s Disease)の範囲にわたった。研究の期間は計画では6ヶ月間であるが、家族がプロトコールの実施に困難がある場合は、必要に応じて完了するまで延長された。

疾患の初期段階の(in the early stages of their illness)参加者は、6ヶ月間で、認知能力と機能能力において(in cognitive and functional abilities)、目に見える改善を示すことが多かった(often responded well with noticeable improvements)。間違って診断され、実際はどんなタイプの認知症でもないであろう人たちも同じである。

より重症の疾患の参加者では、それと同程度の効果は見られなかった。これらの参加者には約1年間プロトコールの実施を継続した。ほとんどのケースで(in most cases)さらなる能力の低下(further decline)は見られず、かなりの数の被験者(a fair number of subjects)は主観的によくなっていると感じていたが、これらの重症の疾患の参加者では目覚ましいレベルの認知の改善(dramatic level of cognitive improvements)は見られなかった。

有効性(effectiveness)は、現在入手しうるアルツハイマー病の薬(available Alzheimer’s medications)より高いようであるが、このアプローチは完治療法に相当する(represents cure)ものではない。

参加者はおおむね機能が主観的に改善または安定化していると感じたが、アルツハイマー病では普通のことであるように機能が引き続き低下していく人たち(some people showing continuing decline)もいた。

以下に、MINDプロトコールの構成要素である、代謝の最適化、栄養サポート、薬の問題について詳しく取り上げます。
感染症に関しては後編で紹介します。

代謝の最適化

症状と臨床検査(symptoms and lab tests)の両方に基づいて、ホルモン機能を最適化する(optimizing hormonal function)ことを推奨している。
臨床検査結果が正常であっても、欠乏していないことを意味しているわけではないことに注意しなければならない。

Dr. Teitelbaumは、ここで取り上げた「ホルモン機能を最適化する」ことに関して、多くの医師は熟練しておらず、ホーリスティック医学を専門とする医師(holistic doctors)が向いているとして、
米国における2000名の認定医のリスト
American Board of Integrative Holistic Medicine (ABIHM) Diplomate
自然療法医(naturopaths)の団体のWEBサイト
THE AMERICAN ASSOCIATION OF NATUROPATHIC PHYSICIANS
を掲げています。

甲状腺ホルモン

疲労(fatigue)、体の一部が絶えず鈍く痛む(achy)、体重増加(weight gain)、冷え性(cold intolerant)、便秘(constipation)ーこれらは若い人にも見られる。
若いときに原因不明の不妊や流産(unexplained infertility and miscarriages)があった。
これらのことは、甲状腺の機能不全を示唆している
(suggestive inadequate thyroid)。

多くの参加者が、臨床検査結果が正常であったにもかかわらず、甲状腺ホルモンによる治療を試みる必要性を示唆する症状(symptoms suggesting the need for a trial of thyroid treatment)を有していた。

テストステロン

テストステロン(testosterone)が、正常範囲の下限値よりも低いと、アルツハイマー病および認知症を発症する可能性が高い(more likely to develop Alzheimer’s and dementia)ことがいくつかの研究により示されている。

多くの男性の参加者が、治療を必要とするテストステロンの欠乏状態にあった。

副腎疲労

空腹時に怒りっぽくなる(irritability when hungry)のは、一般的に言って副腎疲労(adrenal fatigue)であることを示唆している。副腎疲労は低血糖を引き起こし、それによって認知機能と怒りっぽさをさらに悪化させる(aggravate cognitive function and irritability)。

[解説]副腎疲労と低血糖

副腎で分泌されるコルチゾールというホルモンの働きのひとつは、インシュリンに拮抗して血糖値を上げることですが、副腎疲労によってその分泌が悪くなり、低血糖状態を引き起こすということでしょう。
次の日本語サイトに、副腎疲労とその対処法に関する詳しい説明があります。
副腎疲労症候群

栄養サポート

マルチビタミン・DHA・プロバイオティクス 

Dr. Teitelbaumは、まず基本として、良質のマルチビタミン(good multivitamin)の摂取を勧めています。自身が開発を主導した「Energy Revitalization System」といいうブランドを使っているとのことです。
《Energy Revitalization Systemは こちら から購入できます。》

DHA(docosahexaenoic acid)の摂取も重要である。

また、消化が正常に行われること(proper digestion)と脳の健康とは関係していることが判明しているので、プロバイオティクス(probiotics)《乳酸菌、納豆菌など、人体によい影響を与える微生物を含む食品、あるいはサプリメント》を毎日摂取するのはよい選択だと言っています。 Dr. Teitelbaumは、「Probiotic Pearls Elite」というブランドを使っているとのことです。
《Probiotic Pearls Eliteはこちら から購入できます。 》

ビタミンB12と葉酸

ビタミンB12(vitamin B12)は加齢にともなって欠乏しやすい。
アルツハイマー病の患者では欠乏していることが多い。
《ビタミンB12は動物性食品にしか含まれないため、菜食主義者は要注意です。》

葉酸(folic acid)の欠乏が、アルツハイマー病のリスクを高める大きな要因となっていることがいくつかの研究で示されている。

充分な量のビタミンB12と葉酸がないと、ホモシステイン(homocysteine)が増加する。
《ホモシステインは必須アミノ酸であるメチオニンを代謝していく過程で生成される中間代謝物ですが、その先の代謝を誘導するのにビタミンB12と葉酸(とビタミンB6 )が必要であるためです。

ホモシステイン濃度が高いことも、アルツハイマー病患者でよく観察される。ホモシステイン濃度が高いことが、脳機能の障害に関係してきたのである。
《ホモシステインの濃度増大は心血管系疾患の危険因子でもあります。》

血中ホモシステイン濃度が7を越える程度でも《単位が明記されていませんが nmol/mL でしょうか》、高用量のビタミンB12と葉酸の投与によって、それを下げることが重要である。

ビタミンD

ビタミンD(vitamin D)が低レベルであることも、加齢とともに認知機能障害につながってきている。

ビタミンDの血中濃度は検査しなければならないが、1日あたり2000 – 5000 IUを摂取することは有用であり、検査なしで始めることができる。

血中ビタミンD濃度は、25ヒドロキシビタミンD (25-OH-D)の血中濃度で測定されます。これが 100ng/mL (250nmol/L) 以上だと高カルシウム血症の恐れがあるため、高用量の服用ではこの値を超えていないか時々チェックする必要がありますが、5000 IU/日くらいまではこの値を越える危険性はまずないので、検査なしでもよいということでしょう。《米国の摂取上限値(ULs: Tolerable Upper Intake Levels)は9歳以上で4000 IUです。》
欠乏症レベルと言われる20ng/mL(50nm/L)以下というのは、クル病や骨軟化症の恐れがあるというレベルであり、疾病の予防や改善が期待できる最適レベルは 50〜90ng/mL(125〜225nmol/L) と言われています。
参考文献:斎藤糧三. 病気を遠ざける! 1日1回日光浴. 講談社. 2017 

クルクミン

インドのスパイスであるターメリック(turmeric)から取れるクルクミン(curcumin)は、天然の抗炎症物質として脳の良好な健康をサポートする。インドでのアルツハイマー病の率は、米国に較べて70%少ないが、これは食事に含まれるクルクミンの影響である。

クルクミンは吸収のよいものを選ぶ必要がある。私(Dr. Teitelbaum)が使っているブランドは「Curamed」。750mgのカプセルを1個か2個、1日2回投与する。これは患者の機能を安定にし、場合によっては改善するのに実際に大きな役割を果たす(play a really big role)。
《Curamedは こちら から購入できます。》

ココナッツオイル

アルツハイマー病では、脳がインシュリン抵抗性(insulin resistant)を示している。実際にこれは「3型糖尿病(Type III diabetes)」と呼ばれている。

(3型糖尿病では)脳細胞(brain cells)が飢餓状態にある(starving)。何故なら、血糖が高い状態でも、(ブドウ)糖を細胞に取り込んで栄養(fuel)として使えないからであり、ケトン体(ketones)を除くと、(ブドウ)糖だけが脳が使える栄養であるからである。

ココナッツオイルはケトン体を作る。
断食(fasting)によってケトン体が生成される。
しかし、効果が得られる(get to the point)には、十分な量が必要である。1日に小さじ1杯から始め、できれば大さじ4杯まで増やしていく。ただし、すべての人に有効というわけではない。

[解説]ケトン体とココナッツオイル

体内のブドウ糖が枯渇すると、中性脂肪を分解して脂肪酸をエネルギー源としますが、脂肪酸は脳血管関門を通過できません。この過程で肝臓で生成されるケトン体は、脳血管関門を通過して脳の栄養として利用されます。
断食でなくても、1日の糖質摂取量を数10g以下に制限すれば、多くの人でケトン体の血中濃度が高い値となります。
ココナッツオイルに含まれる中鎖脂肪酸(約60%含有)は吸収が早いため、ケトン体濃度を上げる効果が高いのですが、糖質をふんだんに摂取していればケトン体は生成されないので注意が必要です。
血中ケトン体濃度を高くしても認知機能の向上効果がみられない場合が20 – 25%程度あり、これはAPOE遺伝子型の違いによるものとされています。
参考文献: S. T. Henderson. Ketone Bodies as a Therapeutic for Alzheimer’s Disease. Neurotherapeutics, Vol. 5, No. 3, 2008.

薬の問題

多くの高齢者(elderly)はたくさんの薬(12, 15, 20 medications)を服用している。そしてその多くは必要でないものである。

多くの薬はアルツハイマー病の顕著な増加(marked increases)と関係している(associated with)。

抗ヒスタミン薬尿失禁の薬はすべて、必ず止めるように特に気をつけなければならない(Be especially sure to leave off any antihistamines (e.g., Benadryl) or medications for urine incontinence)。両者とも、特に記憶を大混乱させうる(Both of these can especially play havoc with memory)。

アシッドブロッカーを常用していた経歴のある人では、アルツハイマー病と認知症が劇的に増加することが、最近の研究で示された(a recent study showed a dramatic increase in Alzheimer’s and dementia in people who have a history of being on chronic acid blockers)。恐らくこれらの薬が、B12とマグネシウムの吸収を悪くするためであろう(probably because these drugs reduce absorption of B12 and magnesium)。

抗うつ剤(anti-depressants)と鎮痛剤(pain medications)も、特にアルツハイマー病を悪化させるものがある。

Dr. Teitelbaum は、MINDプロトコールの実施において、参加者の多くが、意識障害や病気の状態に大いに寄与したかもしれない薬を服用していた(on medications that may have contributed significantly to their confusion or illness)が、主治医と家族の同意を得て(with the primary physician and family’s consent)、変更するか、中止するか、より適切な代替手段に替えるなどした、とのことです。