糖類摂取の問題[2/2]果糖の危険性

トップに示したグラフは、
Potential role of sugar (fructose) in the epidemic of hypertension, obesity and the metabolic syndrome, diabetes, kidney disease, and cardiovascular disease
The American Journal of Clinical Nutrition, Volume 86, Issue 4, October 2007, Pages 899–906
から引用したもので、一人当たりの年間砂糖消費量と病的肥満の患者数の相関を示したものです。
砂糖消費量の1700−1978年(○)は英国、1975−2000年(♦)は米国のデータ。肥満患者数(●)は米国の60−69才の非ヒスパニック系白人男性のデータ。ただし1880−1910年は50−59才の南北戦争の退役軍人男性のものです。

果糖の多量摂取と、病的肥満、非アルコール性脂肪肝疾患、2型糖尿病、腎機能障害、心臓血管疾患との間には、強い相関があることが疫学的研究により示されています。本稿は、果糖の危険性について、重要と思われる情報を五部構成で紹介しています。

現代の食生活において、果糖の主たる摂取源は、果物や蜂蜜ではなく、砂糖(その半分がブドウ糖、残りの半分が果糖)や近年その使用が増大している異性化糖(『果糖ぶどう糖液糖』などと表記:おおむね55%が果糖で45%がブドウ糖)を多く含み、また多量に摂取することの多いジュース類やソフトドリンク類です。

第Ⅰ部の「多量の果糖は肝臓と心臓に良くない」は、Harvard Medical Schoolが発行する一般向け健康情報に掲載されたもので、果糖摂取と非アルコール性脂肪肝疾患および心臓血管疾患の関係についてわかりやすく解説したものです。

第Ⅱ部は、糖化(グリケーション)について、主として日本糖尿病学会が発行する『糖尿病』誌 2005 年 48 巻 6 号の「特集 グリケーション―食品から臨床へ」の諸論文を抜粋・引用して、わかりやすい解説を構成することを試みました。

ここまでお読みいただければ、果糖の過剰摂取の危険性を大略ご理解いただけると思います。

第Ⅲ、Ⅳ、Ⅴ部は、それぞれ研究論文を元に、関連する情報をご紹介するもので、特にご関心のある方以外はお読みになる必要はないと思います。

第Ⅲ部は肝臓における果糖の代謝について、また第Ⅳ部は果糖の糖化と終末糖化物質の形成についてです。

第Ⅴ部は、2018年2月6日の『Cell Metabolism』に掲載された論文の部分的抜粋・要約です。この論文は、「果糖は小腸からそのまま門脈を通って肝臓に送られ、そこで代謝される」という従来の仮説をくつがえすデータを示したものです。

関連投稿:糖類摂取の問題[1/2]

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乳ガンのリスクを下げるライフスタイル

グラフは 日本乳癌学会 乳癌診療ガイドライン より転載

国立がん研究センターの最新がん統計(2014年データに基づく)によれば、日本人女性が生涯で乳ガンに罹患する確率は9%(11人に1人)、生涯で乳ガンにより死亡する確率は2%(67人に1人)です。

また、トップのグラフが示すように、日本人女性の乳ガン罹患率は年を追って増加しています。(1975年から2010年の35年間で約4倍、しかも増加率が年を追う毎に高くなっています。)

機能性医学(Functional Medicine)を実践している著名な医師であり、ベストセラーとなっている著書も数多い Dr. Mark Hyman が、そのメールマガジンで、乳ガンのリスクを下げるライフスタイルについて2回にわたり(パート1とパート2)紹介しています。原題は Nutrition for Breast Cancer Awareness[直訳すると「乳ガンを意識した栄養学」]ですが、内容はライフスタイル全般にわたっています。

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遺伝子組み換えの是非[1/2]

March Against Monsanto Vancouver  Photo by Rosalee Yagihara

遺伝子組み換えの是非に関する5つの質問に対する回答( GMO vs Non-GMO: 5 Questions Answered )という記事が、米国有数の健康情報サイトである Healthline に掲載されました。

我々の食料供給に関係する遺伝子組み換え問題は、現在進行中の(ongoing)、微妙な(nuanced)、非常に議論の別れる(highly contentious)問題(issue)である。

科学界や医学界の人たちは論争の両サイドに立ち、遺伝子組み換え農作物は飢餓と増大する地球人口問題を解決するのに役立つと主張する人たちもいれば、環境にも人間にも利益以上に害をもたらす(doing more harm than good)と信ずる人たちもいる。

双方の立場を支持する多くの研究がある。我々はどちらを信用すればよいのか?

遺伝子組み換え問題に関わる論点の意味(sense)をより明らかにするため、大きく異なったサイドに立つ二人から、それぞれの専門的な意見(professional opinions)を求めた。

これがこの記事の由来です。今回は「意見」の紹介ですので、情報の要約ではなく、二人の回答の全文を訳出することにしました。

反対派は、脳の健康に関するベストセラー、「いつものパンがあなたを殺す」や「腸の力であなたは変わる」の著者として有名な神経学者の Dr. David Perlmutter
賛成派の Dr. Sarah Evanega は植物生物学者で Cornell Alliance for Science の所長(director)です。

この記事では触れられていない論点で重要と思われる情報は、続編で紹介する予定です。

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除草剤と遺伝子組み換え作物

「モンサントの除草剤でがん発症」、末期患者に賠償320億円 米裁判所 というニュースが話題になっています。
この判決に関わる様々な情報について、 FOOD REVOLUTION NETWORK の主宰者の一人である Ocean Robbins氏が、What The $289 Million Verdict Against Monsanto Means To You というWEB記事で詳しく解説していますので、主としてそれに依りながら、除草剤と遺伝子組換え作物の問題について整理しました。

2018年8月10日、末期的な非ホジキンリンパ腫(terminal non-Hodgkin’s lymphoma)《リンパ系に悪性(がん)細胞が認められる病気》と診断されている46歳のドウェイン・ジョンソン(Dewayne Johnson)氏は、画期的な裁判(landmark case)で大きな勝利を得た。

ジョンソン氏は、カリフォルニア学区(California school district)のグラウンドの管理人(groundskeeper)として働いている間、モンサント社の《グリホサートを有効成分とする除草剤である》ラウンドアップ(Monsanto’s Roundup)を年間最大30回使用していた。カリフォルニア州の陪審員団(California jury)は、除草剤(weed killer)がジョンソン氏のガンの原因であり、農薬製造者(pesticide-maker)は彼が《それに》曝されることによる健康上の危険について彼に警告するのを怠った(failed to warn him of the health hazards from his exposure)と判断した。

陪審団は、モンサント社(2018年6月にバイエル社(Bayer)と合併(merged with)して巨大な農薬・製薬会社(enormous agrochemical and pharmaceutical company)となった)に対して、ジョンソン氏に総額2億8900万ドル(約320億円)の支払いを命じた。

これが報道されているこの裁判の概要です。

下記論文によれば、ジョンソン氏が患っている非ホジキンリンパ腫(non-Hodgkin’s lymphoma:NHL)の発病が、米国において1975年から2006年の間に2倍近く増加しており、グリホサートに基づく除草剤(glyphosate-based herbicides :GBHs)が、それを職業的に使用する人達や、それを日常的に使っている地域の住民達の、この病気の発症リスクを高くすることに関係していると疑われている。しかし因果関係が厳密に研究されているわけではない。
この論文は、グリホサートの使用に関わる様々な懸念(Concerns)について詳しくサーベイしています。
J. P. Myers et al. Concerns over use of glyphosate-based herbicides and risks associated with exposures: a consensus statement. Environ Health. 2016; 15: 19. doi: 10.1186/s12940-016-0117-0

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糖類摂取の問題[1/2]

トップの図は[文献3]Sugar-sweetened beverages and risk of obesity and type 2 diabetes: Epidemiologic evidenceより引用

糖類の過剰摂取が、健康上の様々な問題を引き起こす可能性があることは、既によく知られているところですが、

・我々は毎日どのくらいの糖類を摂取しているのか
・どのくらい摂取すると問題なのか
・どういう健康上の問題があるのか
・なぜそのような健康上の問題が生じるのか

などについて、必ずしも正確な情報が共有されていないかもしれません。そこで、信頼できる資料に基づいて、これらの情報を整理してみました。

本稿で取り上げるのは、下記の内容です。

・糖類に関係する用語の整理
・糖類摂取に関するWHO勧告(2015年)
・「糖類入り飲料と肥満および2型糖尿病のリスク:疫学的証拠」(2010年)と題する研究論文から、米国における糖類摂取の状況、健康上のリスクとそれが発生するメカニズムについて

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人工甘味料の問題

脳の健康に関するベストセラー、「いつものパンがあなたを殺す」と「腸の力であなたは変わる」の著者として有名な Dr. Perlmutter は、自身のブログで、最近の研究論文を参照しながら、人工甘味料(Artificial Sweeteners)の問題について繰り返し警鐘を鳴らしています。

ダイエットソーダは効果がない《トップの図の引用元》
人工甘味料は糖尿病に強く関連している
人工甘味飲料は健康な選択ではない
甘味料はいかに腸内細菌を作り変えるか
人工甘味料 ー アルツハイマー病と脳卒中
マイクロバイオーム ー 地球的な健康への関与

「いつものパンがあなたを殺す:原題 Grain Brain」および「腸の力であなたは変わる:原題 Brain Maker」は、いずれも白澤卓二訳、三笠書房より出版)

Dr. Perlmutter のWEBサイトはこちら

糖類の摂取(sugar consumption)が、冠動脈疾患(coronary artery disease)、病的な肥満(obesity)、2型糖尿病(type 2 diabetes)のような病弊(maladies)に強く関係していることは、科学的研究によって確実かつ明確に示されてきている。

そこで、糖類の摂取を嫌うことから、「シュガーフリー」飲料( “sugar-free” beverages)なるものを、これが健康な代替飲料(healthy alternative)であるという間違った判断でもって(with the misguided sense)選択することが、人々の間で増えている。

しかし、実態(reality of the situation)は全くの見当違い(nothing could be further from the truth)である。

本稿は、Dr. Perlmutter が上記のブログにおいて取り上げている4件の研究論文の概要を示すことにより、人工甘味料の摂取が持つ問題を明らかにしようとするものです。《左端縦傍線の引用マークは Dr. Perlmutterによる要約的紹介とコメント、他は原論文より直接要約しました。》

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脳をチューンアップしてアルツハイマー病を止めよう[2/2]

Dr. Jacob Teitelbaumのインタビュー「脳をチューンアップしてアルツハイマー病を止めよう:MINDプロトコール(The MIND Protocol: Tune Up Your Brain & Turn Off Alzheimer’s)」の後編。

Dr. Teitelbaumは、慢性疲労症候群(CFS: chronic fatigue syndrome: 慢性疲労症候群)と線維筋痛(fibromyalgia)の実効的治療において、世界的に認められた専門家の1人として知られています。

本稿では、Dr. Teitelbaumがデザインしたアルツハイマー病と認知症治療の包括的アプローチであるMINDプロトコールの構成要素のうち、感染症について取り上げます。
代謝の最適化、栄養サポート、薬の問題に関しては前編で取り上げました。
前編はこちら

Dr. Teitelbaumが大物(biggies)として採り上げている感染症が、慢性の膀胱感染症(chronic bladder infection)とカンジダ(candida)です。《本稿では、膀胱感染症よりも広い概念である尿路感染症(UTI: urinary tract infection)を使うことにします。》

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脳をチューンアップしてアルツハイマー病を止めよう[1/2]

「アルツハイマー病は大部分が予防できる(for the most part preventable)」という強力なメッセージをこめて米国で公開されたドキュメンタリーシリーズ「アルツハイマー病からの目覚め(awakening from alzheimer’s)」awakening from alzheimer’sのWEBサイトはこちら

この中から、Dr. Jacob Teitelbaumのインタビュー「脳をチューンアップしてアルツハイマー病を止めよう:MINDプロトコール(The MIND Protocol: Tune Up Your Brain & Turn Off Alzheimer’s)」の情報を要約的にご紹介します。

Dr. Jacob Teitelbaumは、慢性疲労症候群(CFS: chronic fatigue syndrome: 慢性疲労症候群)と線維筋痛(fibromyalgia)の実効的治療において、世界的に認められた専門家の1人として知られています。自身が慢性疲労症候群と線維筋痛のため、メディカルスクールを中断してホームレスになった経験がある由。 著書も多数ありますが、邦訳はされていません。

Dr. TeitelbaumのWEBサイト Dr. T’s Health Blog に掲載されているMINDプロトコールの記載内容も適宜加えました。

本稿はその前編として、
・Dr. Teitelbaumが指摘するアルツハイマー病の特徴
・彼がデザインしたアルツハイマー病と認知症治療の包括的アプローチであるMINDプロトコールの概要
・その構成要素のうち、代謝の最適化、栄養サポート、薬の問題
について取り上げます。
もう一つの構成要素である感染症に関しては後編で紹介します。

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アルツハイマー病と眠れない脳:睡眠が記憶と認知にいかに影響するか[2/2]

Dr. Michael Breusのインタビュー「アルツハイマー病と眠れない脳:睡眠が記憶と認知にいかに影響するか(Alzheimer’s & The Wakeful Brain: How Sleep Affects Memory & Cognition)」の内容紹介の後編です。
前編はこちら

Dr. Michael Breusは、米国でスリープ・ドクター(Sleep Doctor)と呼ばれている著名な臨床心理学者(Clinical Psychologist)。著書も多いのですが、邦訳はされていません。
Dr. BreusのWEBサイトはこちら

2回目の本稿では、サーカディアンリズムを適切に維持することの重要性と、それを乱さないで正しく維持することに関わる諸々の事柄の紹介です。また背景となっている、睡眠を促すツー・プロセスモデルや、睡眠と覚醒の切り替えのメカニズムなどについての解説を加えました。

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アルツハイマー病と眠れない脳:睡眠が記憶と認知にいかに影響するか[1/2]

「アルツハイマー病は大部分が予防できる(for the most part preventable)」という強力なメッセージをこめて米国で公開されたドキュメンタリーシリーズ「アルツハイマー病からの目覚め(awakening from alzheimer’s)」の中から、Dr. Michael Breusのインタビュー「アルツハイマー病と眠れない脳:睡眠が記憶と認知にいかに影響するか
(Alzheimer’s & The Wakeful Brain: How Sleep Affects Memory & Cognition)」の情報を要約的にご紹介します。
awakening from alzheimer’sのWEBサイトはこちら

Dr. Michael Breusは、米国でスリープ・ドクター(Sleep Doctor)と呼ばれている著名な臨床心理学者(Clinical Psychologist)。著書も多いのですが、邦訳はされていません。
Dr. Michael BreusのWEBサイトはこちら

今回は内容が多岐にわたり、かなり長大となりますので、2回に分けて掲載いたします。第1回めの本稿は、一晩の睡眠のパターン、睡眠不足によって何が起きるか、睡眠時無呼吸、よい睡眠を得る方法などについてです。

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