脳をチューンアップしてアルツハイマー病を止めよう[2/2]

Dr. Jacob Teitelbaumのインタビュー「脳をチューンアップしてアルツハイマー病を止めよう:MINDプロトコール(The MIND Protocol: Tune Up Your Brain & Turn Off Alzheimer’s)」の後編。

Dr. Teitelbaumは、慢性疲労症候群(CFS: chronic fatigue syndrome: 慢性疲労症候群)と線維筋痛(fibromyalgia)の実効的治療において、世界的に認められた専門家の1人として知られています。

本稿では、Dr. Teitelbaumがデザインしたアルツハイマー病と認知症治療の包括的アプローチであるMINDプロトコールの構成要素のうち、感染症について取り上げます。
代謝の最適化、栄養サポート、薬の問題に関しては前編で取り上げました。
前編はこちら

Dr. Teitelbaumが大物(biggies)として採り上げている感染症が、慢性の膀胱感染症(chronic bladder infection)とカンジダ(candida)です。《本稿では、膀胱感染症よりも広い概念である尿路感染症(UTI: urinary tract infection)を使うことにします。》

感染症

軽度の弱い隠れた感染であっても(even mild low-grade hidden infections )認知機能を悪化させ得る(can aggravate cognitive function)。

尿路感染症

尿路感染症が、身体に症状を現さない(asymptomatic)こともある。高齢者で無症状なのは、炎症刺激(irritation)を脳に中継する神経が正常に機能していない(not functioning properly)からである。だからといって、感染が脳を乱す(brain fuzzy)影響が減るわけではない。

[解説]尿路感染症と認知症のつながり

The Connection Between UTIs and Dementia | arzheimers.net によれば、

尿路感染症(UTI: urinary tract infection)は、細菌(germs)が尿道(urethra)に入り、膀胱(bladder)や腎臓(kidneys)に移動して発症する。女性の発症率は男性の4倍近いが、これは女性の尿管が短く、細菌(bacteria)が膀胱まで到りやすいためである。

糖尿病(diabetes)、腎障害(kidney problems)、免疫力の低下(weakened immune system)は尿路感染症のリスクを高める。また閉経(menopause)後の女性は、エストロゲン(estrogen)の欠乏(lack)によりそのリスクが高くなるが、それはエストロゲンが尿管内の細菌増殖を抑えているからである。

若い人が尿路感染症にかかった場合は、排尿時の痛み(painful urination)、頻尿(increased need to urinate)、下腹部の痛み(lower abdominal pain)、片側の背部痛(back pain on one side)、発熱と悪寒(fever and chills)のような明確な身体症状(distinct physical symptoms)を経験する。

しかし高齢者(older adult)では、このような症状が現れないことがある。加齢とともに免疫システム(immune system)が変化し、感染に対して異なる反応を示すからである。高齢者では、混乱(confusion)、興奮(agitation)、離脱(withdrawal)などの兆候が増える。

アルツハイマー病患者では、尿路感染症は悲惨な挙動変化(distressing behavior changes)を起こしうる。せん妄状態(delirium)と呼ばれるこの挙動変化は、1ー2日の短期間でも起こり、興奮と落ち着きのなさ(agitation and restlessness)から幻覚や妄想(hallucinations or delusions)の範囲にわたる。

さらに、尿路感染症は認知症の進行を加速するので、介護者はどうやってそのリスクを認識しそれを抑えるかということを理解することが極めて重要である。

マンノース(mannose)と呼ばれるサプリメントでほとんどの尿路感染症は防ぐことができる。
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尿意切迫(urinary urgency)で失禁する傾向があれば(tend to have incontinence)、ハーブのアンゼリカ(angelica)が役に立つ。私(Dr. Teitelbaum)が使っているブランドは「SagaPro」。
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カンジダ

[解説]カンジダとは

カンジダ(candida)は、分類上は酵母菌(イースト:yeast)に含まれ、酵母菌は真菌(fungus)に含まれますので、カンジダ感染症はイースト感染症(yeast infection)や真菌感染症(fungal infection)の一種とみなされます。
感染症を引き起こすカンジダは20種類くらいあると言われていますが、もっともよく見られるのは Candida albicans です。参考資料:Candidiasis | CDC 

 また最近、非常に危険性の高いCandida aurisの存在が、日本を含む10数カ国で報告されています。参考資料:Candida auris | CDC  

日本語のネット情報では、膣カンジダ関連の情報が多く見受けられます。しかしカンジダ菌は消化管内の常在菌であり、それが異常増殖(overgrowth)して感染症(infection)を起こすと、多様かつ深刻な健康上の問題に発展します。
下記の日本語サイトに、6回にわたる詳しい解説が出ています。

コンパニオン微生物であるカンジダ菌は、消化管に住みつく  

過敏性腸症候群

カンジダ感染症(candida)は、過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome)や副鼻腔炎(sinus problem)として現れる。

[解説]過敏性腸症候群とは

過敏性腸症候群(irritable bowl syndrome)《IBSと略称されています》は、大腸の慢性的な症状(chronic condition)で、腹痛(abdominal pain)、筋痙攣(cramping)、腹部膨満(bloating)、過剰なガス(excess gas)、下痢、便秘、あるいはその両方(diarrhea or constipation, or both)などです。幾つかの要因が関与していることは推定されていますが、正確な原因については不明とされています(The precise cause of IBS isn’t known. )。
参考資料:Irritable bowel syndrome | Mayo Clinic

[解説]腸のカンジダ感染症と過敏性腸症候群

Candida Yeast Infection Leaky Gut, Irritable Bowel and Food Allergies | National Candida Center によれば、

カンジダの異常増殖(candida overgrowth) 【candida albicans】は、カンジダイースト感染症(candida yeast infection)とリーキーガット症候群(Leaky gut syndrome)を引き起こす。リーキーガット症候群は、医学的には腸透過性(intestinal permeability)と呼んでいるものである。

カンジダ菌の異常増殖がカンジダイースト感染症のより危険な状態に進むと、カンジダイースト菌は、長い枝分かれする糸状細胞(long, branching filamentous cell)である、菌糸(hypha)を伸ばす。
《カンジダは酵母形と菌糸形の2種類の生育形態を取ります。また自分自身を防衛するためにバイオフィルムを形成すると治療が困難になると言われています。》
菌糸は腸壁細胞(bowel wall cells)(の間を)広げるので、有害な微生物(microorganisms)や巨大分子(macromolecules)がこのすき間(opening)から漏れ出して(leak)、循環系(circulatory system)に入る。【リーキーガット】

身体(body)は、侵入したこれらの異物(invader)に気づいて(alerted to)防御(protection)のための抗体(antibodies)を作り出し、免疫システム(immune system)を作動させる。これによって食物アレルギー(food allergy)が生まれる。

その結果、他の多くの、全身炎症性の(systemic inflammatory)、 免疫に関連した(immune-related)症状(symptoms)が引き起こされる。
関節リウマチ(rheumatoid arthritis)、強直性脊椎炎(ankylosing spondylitis)、多発性硬化症(multiple sclerosis)、湿疹(eczema)、線維筋痛(fibromyalgia)、クローン病(Crohn’s disease)、レイノー現象(Raynaud’s phenomenon)、慢性じんましん(chronic urticaria)、炎症性大腸炎(inflammatory bowel disease)などである。
これらはすべて、過敏性腸症候群(IBS)が生じる条件(conditions)と見なされる(referred to as)。

カンジダ感染症は、二次的細菌感染(secondary bacterial infections)を引き起こし得る。ガス(gas)に硫黄臭(sulfur smell)があれば、小腸での細菌異常増殖(bacterial overgrowth in the small intestine)が示唆される。小腸での細菌異常増殖は、SIBO (Small Intestinal Bacterial Overgrowth)と呼ばれています。》

副鼻腔炎

副鼻腔炎(sinus problem)で、後鼻漏(post nasal drip)が常にのどを流れている(clearing your throat all the time)なら、それはカンジダ感染の兆候(sign)である。
《分泌された鼻水は常にのどを流れているのですが、鼻水の量の増加、粘りのある鼻水が溜まるなどの症状によって、のどに鼻水が流れるときに違和感を感じる状態がずっと続くことを指していると思われます。》

[解説]カンジダと副鼻腔炎

The Candida-Sinus Infection Link | Sinusitis Wellness によれば、

急性の副鼻腔炎(acute sinus infections)は一般的には細菌が原因である(commonly caused by bacteria)が、慢性の感染症(12週を越える)はたいてい真菌感染が原因である(often caused by a fungal infection)。

Mayo Clinicでの研究によれば、慢性副鼻腔炎(chronic sinus infections)の患者の93%が、真菌感染の検査で陽性であった(tested positive for fungal overgrowth)。
その上、抗生物質による治療(treatment with antibiotics)は、 本来は真菌の異常増殖の管理を担う”良い”細菌を殺すこと( killing “good” bacteria that is normally responsible for managing fungi overgrowth)によって、真菌感染を悪化させる(can exacerbate fungal infections)。

結果として生じる慢性の副鼻腔炎(resulting chronic sinus infection)は、しばしば体の他の場所でのカンジダ菌の異常増殖の症状を引き起こす(often lead to additional symptoms of Candida overgrowth elsewhere in the body)。
慢性副鼻腔炎の患者のほとんどは( Almost all patients with chronic sinusitis)カンジダ菌の異常増殖を患っている(suffer from Candida overgrowth)。
カンジダ菌は腸を突き抜けて全身に拡がりうる(Candida can penetrate the gut and spread throughout the body)。

下記の状況がカンジダ菌の異常増殖を進行させうる(The following circumstances can contribute to the development of Candida overgrowth)。

・食事
加工食品(processed foods)、精製した炭水化物(refined carbohydrates)、砂糖(sugars)、アルコール(alcohol)の多い食生活。カンジダ菌はこれらの単純糖質をエサとして無秩序に増殖し始める(Candida feeds on these simple sugars and begins to grow out of control)。

・薬剤
広域抗生物質(broad spectrum antibiotics)《いろいろな菌に有効な抗生物質》、経口避妊薬(birth control pills)、経口コルチコステロイド剤(oral corticosteroids)、ガン治療薬(cancer treatments)、その他のバクテリアを殺すまたは撃退するようデザインされたもの。
カンジダ菌は、体内の他の細菌のレベルが不均衡(out of balance)になったときに蔓延する(flourishes)。 

・免疫力の低下
糖尿病(Diabetes)、クローン病(Crohn’s Disease)、ライム病(Lyme disease)、その他の自己免疫疾患(autoimmune diseases)によって免疫力が低下していれば、 ウィルス性や細菌性の疾患と同じように真菌の異常増殖を撃退できない(cannot ward off fungal overgrowth in a similar way to viral and bacterial illness)。

・慢性ストレス
慢性ストレス(chronic stress)は全身性炎症(systemic inflammation)を引き起こす。炎症は免疫系を疲弊させる(Inflammation wears down the immune system)。
強いストレスにさらされると、体は、炎症性ホルモン(pro-inflammatory hormone) であるコルチゾール(cortisol)のようなストレスホルモン(stress hormones)を放出して、目下の事態を収拾する(cope with the situation at hand)のを助ける。
コルチゾールの上昇は、副腎(adrenal)と ホルモン調節(hormonal regulation)を損なう。 これらすべての不均衡が、イースト菌を助長し、また体をより酸性にしてイースト菌や病気が力を得ることになる(
All of these imbalances promote yeast and a more acidic body, where yeast, illness and disease can thrive)。

[解説]カンジダ感染症の様々な兆候

Dr. Teitelbaumが取り上げている過敏性腸症候群と副鼻腔炎以外にも、カンジダ感染を示す兆候は数多くあります。

慢性疲労(chronic fatigue)、気分障害(mood disorder)、再発性膣および尿路感染症(recurring vaginal & urinary tract infections)、口腔カンジダ症(oral thrush)、頭にもやがかかった状態(brain fog)、皮膚および爪の真菌感染(skin & nail fungal infections)、ホルモンバランスの乱れ(hormonal imbalance)などがあげられます。

ホルモンバランスの乱れによって、早期閉経(early menopause)、月経前症候群(PMS: premenstrual syndrome)、性欲低下(low sex drive)、片頭痛(migraines)、子宮内膜症(endometriosis)、浮腫(water retention)、気分変動(mood swing)、減量がうまくいかない(inability to lose unwanted pounds)などが生じます。
参考資料:9 Candida Symptoms & 3 Steps to Treat Them 

[考察]カンジダ感染とアルツハイマー病のリスク

カンジダ感染からアルツハイマー病のリスクが高くなる経路について考えてみました。

カンジダ菌が生成するマイコトキシンの影響
カンジダ菌が生成する
マイコトキシン(mycotoxin:カビ毒)が、循環系から脳血管関門を通過して脳内に到ったとすると、これを無毒化するためにβアミロイドが生成されると想定されます。Dr. Bredesenが謂うところのType 3のアルツハイマー病(毒素への被曝)では、マイコトキシンに関しては体外からの流入(主として家屋のカビからの吸入による)に焦点があてられていますが [1]、体内で生成されるマイコトキシンも同様の影響があるのではないでしょうか。

カンジダイースト感染症とリーキーガット症候群
過敏性腸症候群(IBS)の項で取り上げたように、
カンジダイースト感染症(candida yeast infection)からリーキーガット症候群(Leaky gut syndrome)に到ると、全身性炎症(systemic inflammation)を引き起こします。これは、Dr. Bredesen の提唱するアルツハイマー病の三類型 [2]の中の、Type 1(inflammatory:炎症性)の要因です。

カンジダ菌の脳内侵入
文献 [3]は、アルツハイマー病の患者の神経組織中に真菌のプロティンとDNAが存在している(fungal proteins and DNA are present in nervous tissue from AD patients)ことを報告しています。多くみられる真菌属(fungal genera)にはカンジダ(Candida)が含まれます。
文献 [3]は、マウスを対象として、βアミロイドがカンジダなどの感染に対して防護的に作用することを示しています。もちろん防護のために生成されたβアミロイドが脳機能を低下させるわけですが。
これも、Dr. Bredesenのアルツハイマー病の三類型 [2] の、Type 1の範疇に入ります。

参考文献

[1] D. E. Bredesen. Inhalational Alzheimer’s disease: An unrecognized – and treatable – epidemic. AGING, February 2016, Vol. 8 No.2 
[2] D.E. Bredesen. Metabolic profiling distinguishes three subtypes of Alzheimer’s disease. AGING, August 2015, Vol. 7 No.8
[3] R. Alonso et al. Infection of Fungi and Bacteria in Brain Tissue From Elderly Persons and Patients With Alzheimer’s Disease. Front. Aging Neurosci., 24 May 2018 | https://doi.org/10.3389/fnagi.2018.00159
[4] D. K. V. Kumar et al. Amyloid-b peptide protects against microbial infection in mouse and worm models of Alzheimer’s disease. Sci Transl Med. 2016 May 25; 8(340): 340ra72. doi: 10.1126/scitranslmed.aaf1059