「アルツハイマー病は大部分が予防できる(for the most part preventable)」という強力なメッセージをこめて米国で公開されたドキュメンタリーシリーズ「アルツハイマー病からの目覚め(awakening from alzheimer’s)」の中から、Dr. Michael Breusのインタビュー「アルツハイマー病と眠れない脳:睡眠が記憶と認知にいかに影響するか
(Alzheimer’s & The Wakeful Brain: How Sleep Affects Memory & Cognition)」の情報を要約的にご紹介します。
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Dr. Michael Breusは、米国でスリープ・ドクター(Sleep Doctor)と呼ばれている著名な臨床心理学者(Clinical Psychologist)。著書も多いのですが、邦訳はされていません。
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今回は内容が多岐にわたり、かなり長大となりますので、2回に分けて掲載いたします。第1回めの本稿は、一晩の睡眠のパターン、睡眠不足によって何が起きるか、睡眠時無呼吸、よい睡眠を得る方法などについてです。
睡眠不足
Dr. Breusによれば。
一晩の睡眠不足でも、3つの領域に影響を与える。
・反応時間が遅くなる(reaction time slows down)。
・ちょっと感情的になる(a little bit more over-emotional)。
・認知機能が低下しがちである(cognitively, have a tendency to slow down)。
睡眠は、すべての臓器系(organ system)とすべての病態(disease state)に影響を与える。
慢性の睡眠不足の人(chronically poor sleeper)はどうなるか?
前述の3つの領域に加えて、・免疫機能(immune function)がかなり劇的に低下し始める。
・さらに睡眠不足となると(the more sleep deprived)、がん細胞の増殖が早くなる(the faster cancer cells multiply)。
・アルツハイマー病の遺伝的傾向(genetic propensity)を持っていれば、睡眠不足(sleep deprivation)が、時がたつにつれ(over the course of time)、それらの遺伝子に影響を与える可能性がある。
一晩の睡眠のパターン
トップの睡眠経過図をご覧ください。睡眠は、Aの覚醒段階を出て、ノンレム睡眠のステージを1⇒2⇒3⇒4⇒3⇒2⇒1とたどり、黒帯で示されているレム睡眠に至ります。これが終わったところ(矢印)までが第1の睡眠周期。一晩の間にこの睡眠周期を何回か繰り返します
回数が進むと、深い睡眠であるステージ3と4は徐々に現れなくなり、レム睡眠の時間が長くなります。1日の睡眠時間のうち、約25%がレム睡眠です。
睡眠周期(sleep cycle)の長さは80分から120分で、平均では90分である。平均的な人は90分の周期を5回繰り返すので、睡眠時間は7時間半となる。
睡眠周期の長さは人によって異なり、また年齢によって変わる。睡眠周期の長さが100分の人は8時間あまりの睡眠時間が必要である。
睡眠の最初のほうに、深い睡眠(deep sleep)と呼ばれるステージ3、4 が現れるが、これは成長ホルモン分泌( growth hormone secretion)による身体修復睡眠(repair-the-body sleep)である。
後ろの三分の一はレム睡眠のためのもので、このとき精神的な修復(mental restoration)が起こる。
[解説]レム睡眠とノンレム睡眠 詳細を表示
睡眠時間が不足すると?
あなたが、通常は夜11時に就寝し、朝6時に起床しているとしよう。あなたは必要なすべての睡眠をとっているので、朝起きたときリフレッシュしていると感じる。
いつもと違って夜1時に寝たとすると、全体が後ろにシフトする。仕事に行かなければならないのでいつも通り朝6時に起きたとするとどうなるか?あなたは最後の睡眠周期を逸することになるが、これはほとんどがレム睡眠で、認知力のサポート(cognition support)が行われるところである。
物忘れ(forgetfulness)はたいていレム睡眠の不足と関係している。
認知低下(cognitive decline)の何らかの様態を持つ人たちにまず観察されるのは、睡眠時間が短かくなっていることである。本当に不眠症(insomnia)かどうかは別として、共通しているのは大変早く起きることである。
アルツハイマー病の人たちは、睡眠時無呼吸(sleep apnea)、むずむず脚症候群(restless leg syndrome)、睡眠時周期的脚運動(periodic limb movements)など、睡眠が悪化する要因(complicating factors in regard to sleep)をしばしば持っている。
睡眠時無呼吸
認知機能障害(cognitive dysfunction)の人たちは、 実際、 睡眠時無呼吸(sleep apnea)のような症状を持つ傾向が高い(higher proclivity)。
ひとつの理由は咽頭の構造(throat structure)によるものであるが、より重要なのは体重増加(weight gain)である。これらの人たちの多くはあまり活動的ではないので、体重が増加する。首の廻りに余分な脂肪組織(extra adipose tissue)がつき始めると、喉を押しつぶしてしまう(crush the throat)。
私(Dr. Breus)がいつも介護者(caretaker)に問うのは、「あなたの患者はいびきをかいて(snoring)いないか?」、「あなたの患者はじっとしていられず(restless)、よく動き回って(moving around quite a bit)いないか?」、「あなたの患者は、日中眠そう(sleepy)でないか?」
大きないびきをかいていて、短い休止(brief pause)があり、再びいびきをかき始める...これはほぼ確実に(almost assuredly)睡眠時無呼吸である。
喉をブロックして呼吸を止める ー 体内の酸素を温存しようとして心拍数を下げる ー 脳が酸素がないといって心拍数を上げて目覚めさせる ーーー
こうして心拍数の下降と上昇が繰り返される。これは心臓に特別の負担を与え、薬の効かない治療抵抗性の高血圧(refractory hypertension)を引き起こすことがある。
もっとも普及している治療法であるCPAP療法(持続的気道陽圧法:continuous positive airway pressure)では、睡眠時に鼻マスクを装着しますが、
認知障害のある(cognitively-impaired)アルツハイマー病の患者の多くはそれに抵抗する。早期発症型の(early-onset)アルツハイマー病ではCPAPが可能なことが多いが、中期段階以降の患者では夜間に鼻チューブ(nasal cannula)で酸素を供給するのが精一杯である(the best we can do)。
もう一つの方法は、特別のマウスピース(mouth guards)を使うことである。こちらの方がアルツハイマー病の患者が邪魔だと感じにくい(less disturbing)。
麻酔をかけて外科的手術をおこなう方法もあるが、アルツハイマー病患者には勧められない。
Nasal dlatorsはいびきを止めるには良いが、睡眠時無呼吸には効果が無い。
むずむず脚症候群と睡眠時周期的脚運動
認知機能障害の人たちで、睡眠に関わる他の大きな問題として見られるのは、むずむず脚症候群(restless leg syndrome)と睡眠時周期的脚運動(periodic limb movements)である。
これはドーパミン(dopamine)の不足と考えられるときもあるし、鉄(iron)が欠乏している可能性もある。
むずむず脚症候群の患者には血液検査をして、フェリチン(ferritin)が50を下回っていたら鉄のサプリメント(原文ではiron sulfate)を与えている。多くの場合それでむずむず脚の症状は消失する。
《フェリチンは体内に貯蔵されている鉄の総量の推計指標であり、通常の健康診断での血液検査の項目には含まれていませんが、保険適用で検査できます。》
よい睡眠を得るには
睡眠の妨げになること(sleep disruption)は 睡眠不足(sleep deprivation)を引き起こし、そのことによってアルツハイマー病のすべての症状(all the symptoms of Alzheimer’s)が悪化する。
よい睡眠のためには
寝室は静寂かつ暗くする(Keep bedroom quiet and dark)
アルツハイマー病の患者を空腹のままベッドに行かせてはいけない。より興奮して(agitated)、眠りにつくのが困難になる。
アルコールを避ける。夕食時にワインやビールを飲んでいるのならノンアルコールのものに替えていく。
夕食にスパイシーな食物(spycy foods)を避ける。胃食道逆流(gastroesophageal reflux)を起こすことがあり、それによって睡眠が妨げられる。
七面鳥(turkey)が睡眠に効果があるなどという説を信じてはいけない。含まれるトリプトファン(tryptophan)が効力を発揮するには、20kg(46-pound)もの七面鳥を食べなければならない。
マグネシウムの摂取やカモミールティー(chamomile tea)は助けになるかもしれないが。次の食事の制限(dietary ristrictions)を2から3ヶ月やってみて、変化があるかどうかを見るのもよい考えである。
・グルテンフリーダイエット(gulten free diet)
・砂糖の量を減らす(cut back on sugar)。人工甘味料(artificial sweeteners)も避ける。