加工食品の摂取とガンとの関係について

自然医学(natural medicine)の世界的権威であるDr. Michael Murrayは「新たな研究は加工食品がガンのリスクを高めるということを決定的に示している(New Study Definitively Shows Processed Foods Increase Cancer Risk)」と題するメールマガジンで、最近発表された下記の研究論文について要約・論評しています。

Fiolet T, Srour B, Sellem L, et al. Consumption of ultra-processed foods and cancer risk: results from NutriNet-Santé prospective cohort. (Published 14 February 2018)
 BMJ. 2018 Feb 14;360:k322. doi: 10.1136/bmj.k322.
(トップの画像はこの論文から引用)
以下、これを「原論文」と呼びます。

本記事の表題はDr. Murrayに倣って「加工食品(processed foods)」としていますが、原論文が問題にしているのは「加工食品(processed foods)」すべてではなく、「超加工食品(ultra-processed foods)」と呼んでいるものです。

Dr. Murrayによれば

この研究結果により、食事における少量のジャンクフードでも(even small amount of junk food in the diet)、ガンのかなりの(considerable)リスクを伴うことが示された。体内で生じた1個の変異細胞からガンのプロセスが始まることを考えれば、これは驚くべき結論ではない。

ガンの要因となる化学物質を多く含む食品(foods loaded with cancer-causing chemicals)を食べるのはロシアン・ルーレットのようなものだ。より多くのジャンクフードを食べればそれだけ弾倉の弾丸が増える。

ここではDr. Murrayは超加工食品をジャンクフードと呼んでいます。

ガンは多くの因子が関与する疾患(multifactorial disease)であるが、食事が主要因の一つであることに疑いはない。自然食品(whole natural foods)の消費はガンのリスクを低下させるが、高度に加工された食品(highly processed foods)の摂取はガンの原因として作用する(causative)。

問題は、米国および他の多くの国の食事が、特に最近の数十年間で、超加工食品(ultra-processed foods)の消費量の劇的な増加(dramatic increase)へと転換したことである。米国、カナダ、欧州各国、及び他の国々における幾つかの調査によれば、超加工食品(ultra-processed food products)が一日の全エネルギー摂取の25~50%を占めることが示されている。これが大きな問題(major problem)なのだ。

本記事では、Dr. Murrayによる原論文の要約的紹介とともに、原論文が問題にしている超加工食品(ultra-processed foods)とは何か、またそうでない食品は何かということをさらに詳しく見るために原論文の該当箇所を記載しています。

Dr. Murrayによる原論文の要約的紹介

加工食品(processed food)の摂取が、肥満(obesity)、高血圧(high blood pressure)、心疾患(heart disease)のリスク増加の一因となるということは幾つかの研究で示されていたが、ガンとの関連を調べた研究は今まで無かった。

食品がガンのリスクに与える影響を定量化するために、研究者達は、フランスで実施されているNutriNet-Santéのデータを検討した。
NutriNet-Santéとは


この8年間の調査は、年齢が18歳から73歳までのほぼ105,000人の対象者を含み、その78.3%が女性で、男性は女性ほどには必要な調査項目に記入していない。

研究データは、参加者が2週間にわたる1日当たりの食品摂取をオンライン調査に記入することで収集され、特に3,300の異なる食品品目(food items)が追跡されている。

この研究は超加工食品(ultra-processed foods)の摂取がガンを引き起こす影響について特に着目している。超加工食品とは、砂糖(sugar)、望ましくない油脂類(undesirable fats and oils)、塩(salt), および保存料(preservatives)、安定剤(stabilizers)、人工着色料(artificial coloring agents)、人工香料(artificial flavors)、人工甘味料(artificial sweeteners)のような合成食品添加物(synthetic food additives)、を多量に含む食品である。

要するにスーパーマーケットの中央の通路で売られている多くの食品だ。

これらの食品の常用摂取は少量でも(even a small regular intake of these foods)破壊的な影響(devastating consequence)を及ぼす。超加工食品の摂取は、ガン全般のリスク(overall cancer risk)を高める。

食事における超加工食品の割合が10%増加することに対する計算上のリスクは12%(原論文ではhazard ratio 1.12)であった。

超加工食品(ultra-processed foods)とは

原論文で超加工食品(ultra-processed foods)が何を意味しているか確かめました。

本研究では、(対象とする)すべての食品と飲料を、NOVAの4つの食品グループに分類した。

NOVAとは、工業的食品加工(industrial food processing)の範囲と目的(extent and purpose)に基づく食品分類体系(food classification system)である。

NOVAの4つの食品グループとは、
Monteiro CA, Cannon G, Levy RB, et al. NOVA. The star shines bright. World Nutrition 2016;7:28-38.

によれば、

グループ1:非加工または加工が最小限の食品(Unprocessed or minimally processed foods)

グループ2:加工による料理材料(Processed culinary ingredients)
グループ1の食品または自然物から、
絞る(pressing)、精製する(refining) 挽く(grinding)、製粉する(milling)、噴霧乾燥する(spray drying)などの加工で直接得られる物質。

グループ3:加工食品(Processed foods)
グループ1の食品に砂糖、油、塩、またはグループ2の物質を加えて作った比較的シンプルな生産物。

グループ4  超加工食品と飲料生産物(Ultra-processed food and drink products)
工業的に調合されたもの(industrial formulations)で通常は多くの成分を含んでいる。

として、グループ4の超加工食品と飲料生産物(Ultra-processed food and drink products)を、他の3つのグループの食品群と対比しています。

原論文はグループ4の

超加工食品(ultra-processed food)に主に焦点を絞っている。このグループに含まれるのは、

・大量生産されたパッケージ入りのパン類やバーガー用丸パン(mass produced packaged breads and buns)

・甘いあるいは塩味のきいたパッケージ入りのスナック(sweet or savoury packaged snacks

・工業的に生産された甘い菓子類とデザート(industrialised confectionery and desserts)

・炭酸飲料類と甘くした飲料類(sodas and sweetened drinks)

・ミートボール、鶏と魚のナゲット(meat balls, poultry and fish nuggets)、その他の塩以外の保存料(例えば亜硝酸塩)を加えて変換された再構成肉製品(other reconstituted meat products transformed with addition of preservatives other than salt (for example, nitrites))
再構成肉とは

・即席の麺類とスープ類(instant noodles and soups)

・冷凍あるいは常温保存可能な調理済み料理類( frozen or shelf stable ready meals)

・その他の食品生産物で、砂糖、油脂類、および料理に普通には使われない添加硬化油、加工デンプン、アイソレートプロテインのような物質、を大部分のあるいはそれのみを原料とするもの(other food products made mostly or entirely from sugar, oils and fats, and other substances not commonly used in culinary preparations such as hydrogenated oils, modified starches, and protein isolates)

工業的プロセス(Industrial processes)は、水素添加(hydrogenation)、,加水分解(hydrolysis)、押し出し加工( extruding)、モールディング(moulding)、再形成( reshaping)、油を使って加熱する前処理(pre-processing by frying)を顕著に含んでいる。

香料添加剤(flavouring agents)、着色料(colours)、乳化剤(emulsifiers)、保湿剤(humectants)、非糖甘味料(non-sugar sweeteners)、その他の欠点を隠すための添加物(other cosmetic additives) が、非加工または加工が最小限の食品とその料理の感覚特性を偽装するために(to imitate sensorial properties of unprocessed or minimally processed foods and their culinary preparations)、あるいは最終製品の望ましくない品質を隠すために(to disguise undesirable qualities of the final product)しばしば加えられている。

超加工食品(ultra-processed foods)でないもの

では、超加工食品(ultra-processed foods)でない食品とはどんなものかというと

グループ1: 非加工または加工が最小限の食品(Unprocessed or minimally processed foods)
果物類、野菜類、豆類、米、パスタ類、卵類、肉類、魚類、乳類(fruits, vegetables, pulses, rice, pasta, eggs, meat, fish, or milk)のような主要食品類で、生、乾燥、挽いた、冷蔵、冷凍、低温殺菌、発酵(fresh, dried, ground, chilled, frozen, pasteurised, or fermented)の状態のもの。

グループ2:加工による料理材料(Processed culinary ingredients)
塩、植物油、バター、砂糖(salt, vegetable oils, butter, sugar)、およびグループ1の食品を料理するためにキッチンで使う食品からの抽出物 (other substances extracted from foods and used in kitchens to transform unprocessed or minimally processed foods into culinary preparations)。

グループ3:加工食品(Processed foods)
塩を加えた缶詰野菜類(canned vegetables with added salt)、砂糖でコーティングしたドライフルーツ類(
sugar coated dried fruits)、塩だけを保存料とする肉製品類(meat products preserved only by salting)、チーズ類(cheeses)、パッケージに入っていない出来たてのパン類(freshly made unpackaged breads)、ならびに塩、砂糖、およびグループ2の料理材料を加えて作られた製品類(other products manufactured with the addition of salt, sugar, or other substances of the “processed culinary ingredients” group)

加工食品(processed food)という観点からするNOVAの4グループの食品分類体系は、区分が明確で、健康な食生活を考える上で大変有用だと思われます。ただ、現在市販されている多くの植物油(サラダ油、テンプラ油など)は、ヘキサンを溶媒として抽出する工業的生産物なので、分類の趣旨からするとグループ4に該当すると思うのですがいかがでしょうか。