われらの時代にアルツハイマー病は終わる

「アルツハイマー病は大部分が予防できる(for the most part preventable)」という強力なメッセージをこめて米国で公開されたドキュメンタリーシリーズ「アルツハイマー病からの目覚め(awakening from alzheimer’s)」の中から、Dr. Dale Bredesenのインタビュー「われらの時代にアルツハイマー病は終わる(The End of Alzheimer’s in Our Time)」の情報を要約的にご紹介します。
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Dr. Dale Bredesenは、アルツハイマー病を克服するという分野での世界的なリーダーで、最近出版した「アルツハイマー病 真実と終焉」(白澤卓二監修、山口茜翻訳、ソシムより出版、原題 The End of Alzheimer’s)はベストセラーとなっています。
(トップの画像はこの著書から引用)
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Dr. Bredesenによれば

我々は現在、アルツハイマー病が治療可能(treatable)であるという時代の文字通りの幕開けを目にしている。

我々は、この病気に伴う認知低下(cognitive decline)を回復に向かわせつつある(reversing)。最初の例は1年半少し前、10のケースについてであった。現在は100人以上の患者が治療プログラムを受けており、劇的かつ前例のない改善 (dramatic and unprecedented improvements)を目の当たりにしている。

例えば、
・MRIで観察した
海馬体積(hippocampal volume on MRI)の改善
・定量的な神経細胞検査(quantitative neurocyte testing)の改善
・仕事への復帰
・出来なかった作業が出来るようになる
・配偶者や子供達との交流
・記憶が戻る
など。

詳しい治療事例は前掲著書を見ていただくことにして、本記事では、Dr. Bredsenが提唱するアルツハイマー病の根本原因と治療プログラムがどのようなものか、また予防にも役立つと思われる食事法について記述いたします。

アルツハイマー病の根本原因

Dr. Bredesenは、アルツハイマー病をその根本原因によって3つのタイプに分類しています。

我々は27年間にわたって、アルツハイマー病における機能喪失(degeneration)を実質的に引き起こしている発症機序(underlying mechanisms)が何であるかを見つけようとしてきた。

アミロイド(amyloid)がこの疾患の解決すべき問題であるという考えは遅れている。我々が発見したのは、アミロイドは保護物質(protectant)であるということであり、脳は下記の3種類の中毒および代謝条件(toxic and metabolic conditions)のもとで、アミロイドを防護(protection)の一環として産生する。

タイプ Ⅰ アルツハイマー病:炎症ないし感染(inflammation or infections)

口腔細菌、スピロヘータ類、菌類、カビ類のようなものに対して脳は防護物質としてアミロイドを産生する。脳に炎症を起こすもの、砂糖の多量使用(high sugar usageのようなものさえも脳の炎症を引き起こし、それらに対する反応として炎症経路(inflammatory pathways)が活性化する。その経路にアミロイドの産生が含まれる。

タイプ Ⅱ アルツハイマー病:栄養的な支えがなくなること(withdrawal of trophic support)

エストラジオール、テストステロン、ビタミンD、神経成長因子、脳由来神経栄養因子(estradiol, testosterone, Vitamin D, nerve growth factor, brain-derived neurotrophic factor)など、脳の構造およびシナプスの相互作用を支える多くの栄養的な分子があるが、それらが減少するとそれに対する反応は、シナプスネットワークのダウンサイジングプログラム(downsizing program)の一環であるアミロイドの産生である。
ダウンサイジングプログラムとは

タイプ Ⅲ アルツハイマー病:毒性物質に曝されること(exposure to certain toxins)

二価の金属、水銀、銅、鉄(divalent metals, mercury, copper, iron)のような毒性物質に曝されるとアミロイドを産生する。アミロイドはこれらの物質と強く結合するので良好な防護体である。《注:銅と鉄は必須ミネラルであり、ここではそれらが過剰に体内に存在していることを指していると思われます。》
あらゆる種類の生物毒素(all sorts of biotoxins)、例えばマイコトキシン《カビの二次代謝産物として産生される毒の総称》(mycotoxins)、ライム病に関係する毒素(Lyme-related toxins)なども然り。
ライム病とは

治療プログラム

要因の複雑さ

アルツハイマー病の

根本的な退行的変性過程(underlying degenerative process)を進めさせるものが何かというと、ほとんどが前述の3つのタイプに分類される。我々は、それらの反応経路で働くすべての分子(all the molecular drivers of the pathway)は何か調べ、始めに36個を同定した。

薬剤を用いた治験の失敗

2002年から2012年の10年間に、何十億ドルも費やして244のアルツハイマー病の治験が行われたが、243は完全な失敗で、1つは成功したがごく僅かの影響をもたらすものでしかなかった。問題は薬剤(drugs)に多くを頼りすぎていることだ。単一の薬剤がこれら何十もの事柄に対応することはできない。

Dr. Bredesenは、「代謝、感染、炎症をすべて整えなければ改善は見られない。これらを整えれば(fix)、著しい改善が見られる」と言っています。

21世紀の医学は多くのデータを収集する

20世紀の医学は、「高血圧(hypertension)ならば降圧剤を処方する、アルツハイマー病ならばその薬剤を与える」というものであった。

21世紀の医学では、根本原因(root cause)を知りたいのであり、「アルツハイマー病か?」ではなく「なぜアルツハイマー病になったのか?」を問う。これが機能性医学や統合医療の根本(the basis of functional medicine, integrative medicine)なのだ。

我々は医師として、信じられないほど複雑な、人間という生命体に取り組んでいる。ガン、鬱血性心不全、アルツハイマー病、パーキンソン病(cancer, congestive heart failure, Alzheimer’s disease, Parkinson’s disease)のような複合要因からなる慢性疾患(chronic, complex illnesses)になぜなったのかを知るには、多くのデータ(much larger data set)が必要である。

アルツハイマー病に対して

現在、我々は100以上のパラメータ(over 100 parameters)を、病歴(historically)、画像診断( imaging-wise)、生化学的(biochemically)、遺伝子学的(genetically)等の観点から調べている。

簡単な例を挙げれば、
・銅と亜鉛の比率(copper to zinc ratio)
・エストラジオールとプロゲステロンの比率(estradiol to progesterone ratio)
・ビタミンDの状態(Vitamin D status)
・ストレスレベル(stress level)
・現在進行中の炎症(ongoing inflammation)があるか?
・高感度C反応性プロテイン(hs- CRP)、インターロイキン6(IL-6)、腫瘍壊死因子(TNF alpha)《これらはいずれも炎症の状態を示す》
等々。

治療プログラムの概要

タイプ Ⅰ とタイプ Ⅱ のアルツハイマー病への対処はどちらかといえば容易だが、タイプ Ⅲ はより難しい傾向にある。タイプ Ⅲ では毒性物質に曝されており、まずそれを特定し、それを取り除くことから始めなければならないからである。

「糖毒性の」(glyco-toxic)アルツハイマー病と呼んでいる複合タイプもある。慢性的な糖質過剰摂取とそれに起因するインスリン抵抗性によって、終末糖化産物(AGE’s: advanced glycation end products)が蓄積し、その炎症反応が起きている -タイプ Ⅰ 。同時にインスリン抵抗性によって脳が栄養を取り込めない – タイプ Ⅱ 。

アルツハイマー病では、シナプスの生成活動(synaptoblastic activity)と消滅活動(synaptoclastic activity)のミスマッチが起こっている。前述の多くのデータから、その状態を知ることが出来る。

シナプスの消滅活動を低下させ、生成活動を高めれば、シナプスの形成と維持が再び可能となる。そのためには何十もの事柄が必要である。21世紀の医学は、錠剤(pill)に替わって、多くのデータと、それに基づく(治療)プログラムなのである。

このシナプスの健全な状態をつくり出すためには、毎日やらなければならないことがあるので、患者あるいは看護人(caregiver)の側に幾分かの義務がある。

プログラムは、何が実際に患者に問題を起こしているかによって決まるので、患者に合わせた(personalized)ものとなる。

食事は特に重要であり、項を改めて詳述します。

サプリメントも個人にあわせたものとなる。

ストレスの低減、良い睡眠も重要である。

ヘルスコーチが21世紀の医療システムの重要な要素となるであろう。ヘルスコーチは個々人が最適の事柄をなすのを手助けする。

食事の重要性

炭水化物を基礎とする食事体系から脂質を基礎とする食事体系へ

最初にやるべきことは、炭水化物を基礎とする食事体系(carbohydrate-based system) から脂質を基礎とする食事体系(lipid-based system)に変えることである。良い脂質であるココナッツオイル、MCTオイル、アボカド、ナッツ類を食事に取り入れる。とてもマイルドなケトーシスを保つことは助けになる。

脂質は、オメガ6に対してオメガ3の比率を高く保つ。オメガ3は抗炎症性(anti-inflammatory)である。

単純炭水化物であるすべての食品を遠ざける。(get away from everything that is simple carbohydrate)《単純炭水化物とは、ブドウ糖(グルコース)や果糖(フルクトース)などの糖類、精白した穀類など、消化・吸収の速い炭水化物を指します。》

単純炭水化物、飽和脂肪、 水溶性および不溶性の食物繊維が少ないものの3つの組合せ(the combination of simple carbohydrates, saturated fats, and low fiber, both soluble and insoluble)はとても有害(very damaging)である。

低グリセミック食品

前述の「糖毒性」アルツハイマー病のリスクを下げるため

インスリンスパイクが起こらないようにする。これは米国の食事(American diet)や加工食品(processed food)の持つ大きな問題のひとつである。

果物も低グリセミックのものにする。

すべての白い食品(all the white stuff)、特にジャガイモ、白米、白いパンを避ける。

野菜と肉・卵・魚

食物繊維は助けになる。

「肉と野菜」ではなく「野菜」を摂る。

野菜を主に、肉は食べるとしても薬味(condiment)程度にする。

牛肉は、放牧の(pastured)、牧草で育てられた(grass-fed)ものにする。

卵を食べるなら放し飼いの鶏からの卵(pastured egg)にする。

魚は、より毒の多い養殖された(farmed)ものを避け、天然(wild-caught)のものにする。

メカジキ、サメ、マグロ(swordfish, shark, tuna)等の水銀濃度の高い魚を避け、水銀濃度の低いサケ、サバ、アンチョビ、イワシ(salmon, mackerel, anchovies, sardines and herring)にする。

グルテン

グルテン感受性の検査を受ける。ただ、グルテンを避けるのは常によい考えである。

一日の中で食べない時間

夜、最低12時間は絶食する(fast at night for a minimum of 12 hours)。その日の最後の食物から次の日の最初の食物まで12〜16時間空けることが推奨される。オートファジー(autophagy)によって脳が掃除(clean out)される。

最後の食物摂取から寝るまで、3時間は空ける。

絶食中、水分は摂っても良いが、カロリーのあるものは駄目。