脳の健康に関するベストセラー、「いつものパンがあなたを殺す」と「腸の力であなたは変わる」の著者として有名な Dr. Perlmutter は、自身のブログで、最近の研究論文を参照しながら、人工甘味料(Artificial Sweeteners)の問題について繰り返し警鐘を鳴らしています。
ダイエットソーダは効果がない《トップの図の引用元》
人工甘味料は糖尿病に強く関連している
人工甘味飲料は健康な選択ではない
甘味料はいかに腸内細菌を作り変えるか
人工甘味料 ー アルツハイマー病と脳卒中
マイクロバイオーム ー 地球的な健康への関与
「いつものパンがあなたを殺す:原題 Grain Brain」および「腸の力であなたは変わる:原題 Brain Maker」は、いずれも白澤卓二訳、三笠書房より出版)
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糖類の摂取(sugar consumption)が、冠動脈疾患(coronary artery disease)、病的な肥満(obesity)、2型糖尿病(type 2 diabetes)のような病弊(maladies)に強く関係していることは、科学的研究によって確実かつ明確に示されてきている。
そこで、糖類の摂取を嫌うことから、「シュガーフリー」飲料( “sugar-free” beverages)なるものを、これが健康な代替飲料(healthy alternative)であるという間違った判断でもって(with the misguided sense)選択することが、人々の間で増えている。
しかし、実態(reality of the situation)は全くの見当違い(nothing could be further from the truth)である。
本稿は、Dr. Perlmutter が上記のブログにおいて取り上げている4件の研究論文の概要を示すことにより、人工甘味料の摂取が持つ問題を明らかにしようとするものです。《左端縦傍線の引用マークは Dr. Perlmutterによる要約的紹介とコメント、他は原論文より直接要約しました。》
目次
肥満の蔓延を煽っているのか?人工甘味飲料の飲用と長期にわたる体重増加[文献1]
米国肥満学会の発行するObesity Journalに2008年に掲載された初期の調査結果です。米国テキサス州サンアントニオ市 で実施された San Antonio Heart Studyにおいて、人工甘味飲料の摂取(artificially sweetened beverage consumption)と長期にわたる体重増加(long-term weight gain)の関係を調べたものです。
1979年から1988年の間に、5158名の成人住民の身長、体重、人工甘味飲料の摂取量を測定し、7 – 8年後にそのうちの3682名の参加者について再調査した結果、有意な正の用量反応(significant positive dose-response)《人工甘味料の摂取が増えると体重が増加すること》が明らかになりました。
論文の著者らは、「これらの調査結果は、人工甘味料が、エスカレートしつつある肥満の蔓延と戦うのではなく、それを煽っているのではないかという疑問を提起している」としています。
また、これらの結果に対して考えられる説明(possible explanations)を試みていますが、そのひとつは、糖類の摂取は満腹感(sense of satiety)をもたらすが、満腹感がないと脂質およびタンパク質の摂取量が通常は増加するので、この補償作用が(場合によっては過剰に)起こっているのではないかというものです。
人工甘味飲料および糖類甘味飲料摂取と2型糖尿病の発症[文献2]
2013年にAmerican Journal of Clinical Nutritionに掲載されたこの研究は、フランスの研究者達が、人工甘味飲料(artificially sweetened beverages)の摂取と、糖類甘味飲料(sugar sweetened beverages)の摂取との比較において、2型糖尿病を発症するリスクを判定(determine the risk of developing type Ⅱ diabetes)しようと試みたものである。60000人以上の女性を対象とした約14 年間に及ぶ大規模な調査であった。
研究者達は、予想通り、糖類甘味飲料の飲用が2型糖尿病の発症リスクをはっきりと増加させる(約34%)ことを見いだした。しかし、真に驚くべきことは(truly an eye-opener)、人工甘味飲料の飲用による糖尿病発症リスクの増大が糖類甘味飲料の飲用によるリスク増大の2倍以上であるという研究結果である。《トップの図をご参照ください》
人工甘味料は腸内細菌叢を変えることにより耐糖能障害を誘発する[文献3]
耐糖能とは、経口または血管内にブドウ糖を投与された際の処理能力です。一定量のブドウ糖を経口投与し、一定時間後に血糖値を測定する糖負荷試験で、耐糖能障害(異常)は、正常と糖尿病の間に位置し、糖尿病に移行する可能性が高いとされています。
2014年にNatureに掲載されたこの論文で、イスラエルの研究者達は、実験動物とヒトの双方において(both laboratory animals as well as humans)、耐糖能障害(glucose intolerance)が人工甘味料(artificial sweeteners)が誘発する腸内細菌の変化(changes in the gut bacteria)によって生じることを示した。
この研究は、緻密な実験を段階的に積み重ねることによって、表題の「人工甘味料は腸内細菌叢を変えることにより耐糖能障害を誘発する」ことを実証的に示そうとしています。興味深い内容なので実験内容を原論文より下記に要約しましたが、かなり専門的な内容です。特別に関心のある方以外は詳細は飛ばしていただいたほうが良いかもしれません。
[1] 人工甘味料の常用摂取が耐糖能異常を悪化させる
(Chronic NAS consumption exacerbates glucose intolerance)
《この論文では人工甘味料をNAS(non-caloric artificial sweeteners)と呼んでいます。 》
[2] 腸内細菌叢が、人工甘味料によって誘発される耐糖能異常に介在している
(Gut microbiota mediates NAS-induced glucose intolerance)
[3] 人工甘味料が、細菌叢の機能的変化を媒介している
(NAS mediate distinct functional alterations to the microbiota)
[4] 人工甘味料が細菌叢を直接変化させ、耐糖能異常を誘発させる
(NAS directly modulate the microbiota to induce glucose intolerance)
[5] ヒトにおいて人工甘味料が耐糖能異常に関係している
(NAS in humans associate with impaired glucose tolerance)
糖類および人工甘味飲料と脳卒中および認知症発症のリスク[文献4]
2017年に、米国心臓協会(AHA)のジャーナルのひとつであるStrokeに掲載されたこの論文は、米国マサチューセッツ州で行われている研究 community-based Framingham Heart Study Offspring cohort の中で、糖類または人工甘味飲料の摂取(sugar- or artificially sweetened beverage consumption)が 、将来の脳卒中や認知症の発症リスク(prospective risks of incident stroke or dementia)と関係するかどうかを調べたものです。
結果は、1日に1個のグラス、瓶、缶(1 glass, bottle, or can)以上の頻度で人工甘味飲料を摂る人は、1週間に1個も摂らない人を基準にして、虚血性脳卒中のリスクは2.96倍(HR: 2.96, 95% CI: 1.26 – 6.97)、アルツハイマー病のリスクは2.89倍(HR: 2.89, 95% CI: 1.18 – 7.07)と計算されています。
一方、糖質甘味飲料は、脳卒中および認知症との関係は見られなかったとのことです。
以下は Dr. Perlmutter のコメントです。
これらの研究結果が驚くべき事ではない理由は、脳卒中もアルツハイマー病も共に、その原因に関して同様の機序(mechanism)を有しているからである。どちらも最初のうちは(primarily)炎症性疾患(inflammatory disorders)である。
人工甘味料に曝されることによって生じる腸内細菌の変化は、よりいっそうの炎症性環境(inflammatory environment)を作り出す。
これによって、どちらも炎症性疾患である肥満と糖尿病のリスクが、人工甘味料の摂取に関連して著しく増大することが説明される。
そして、肥満も糖尿病も、脳卒中とアルツハイマー病におおいに関係している(powerfully related to)のだ。
無用の誤解を避けるために
無用の誤解を避けるために明確にしておきたいのですが、
Dr. Perlmutter は、「人工甘味料に毒性があるので安全ではない」と言っているのではありません。
国内で使用が許可されている人工甘味料は、現時点で、アスパルテーム(aspartame)、アセスルファムカリウム(acesulfame potassium)、スクラロース(sucralose)、サッカリン(saccharin)およびサッカリンナトリウムとサッカリンカルシウム、ネオテーム(neotame)、アドバンテーム(advantame)だと思われます。
参考資料 近年における人工甘味料の動向 は、代表的なものとしてアスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロースを取り上げて解説しています。
これらは食品添加物として、実験動物を用いた毒性試験を実施し、それに基づいて許容1日摂取量を設定し、さらにこれを越えないように使用基準を設定して安全性を確保していることになっています。
ここで言う毒性試験とは、反復投与毒性試験、繁殖試験、催奇形性試験、発がん性試験、変異原性試験、抗原性試験、一般薬理試験です。
参考資料 食品添加物の安全性確保
Dr. Perlmutter が取り上げている「人工甘味料の問題」とは、人工甘味料の摂取により体内の炎症性が亢進し、その結果、炎症性疾患のリスクが高まるというものです。
前述の「食品添加物の安全性確保」により、このようなリスクが無いことが担保されるものではないことは明らかです。
Dr. Perlmutter は、
ライフスタイル(life style choices)の選択が我々の体内に定住する微生物(resident microbe)の健康に作用し、次ぎに(in turn)それが我々の健康に影響を与える。
と述べていますが、人工甘味料を含む飲料・食品を摂取するかどうかは、まさにこのライフスタイルの選択の問題と言えるでしょう。
商業的な宣伝やコマーシャルが我々に信じさせようとしているところに反して、シューガーフリーや低カロリー、ノーカロリーの飲物を飲用することに、安全なところや健康なところは何も無い(there is nothing safe or healthy)。
しかしながら、これは糖類甘味飲料を飲むことを正当化するものではない。
我々には、いつも、水、炭酸水、冷やしたコーヒーやお茶という選択肢がある。
人工甘味料はどのようなもの使用されているか?
前掲の参考資料 近年における人工甘味料の動向から、人工甘味料が使用されている可能性のあるものをあげておきます。
清涼飲料(炭酸飲料、コーヒー、紅茶など)、乳飲料、乳酸菌飲料、
清酒、合成酒、果実酒、雑酒、
菓子、生菓子、チューインガム、パン、
アイスクリーム類、氷菓、ジャム類、
たれ、漬物、佃煮、煮豆、水産練製品、調味料 など
人工甘味料などの添加物は、食品衛生法施行規則により、「邦文をもつて、当該食品又は添加物を一般に購入し、又は使用する者が読みやすく、理解しやすいような用語により正確に」「当該容器包装又は包装の見やすい場所に記載すること」になっています。
ただし、「当該食品中に含まれる量が少なく、かつ、その成分による影響を当該食品に及ぼさないもの」、「及びキャリーオーバー(食品の原材料の製造又は加工の過程において使用され、かつ、当該食品の製造又は加工の過程において使用されない物であつて、当該食品中には当該物が効果を発揮することができる量より少ない量しか含まれていないものをいう。)を除く」とあります。